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2026年2月10日火曜日

津崎克彦「日本の産業構造の変化と特定技能制度」

2/10/2026

津崎克彦(2025)「日本の産業構造の変化と特定技能制度」(駒井洋監修・加藤丈太郎編『再考・特定技能制度――労働力から人間へ』(移民・ディアスポラ研究 13) 第二章)

【要約】

2019年に導入された「特定技能制度」について、その形成過程を1990年入管法の改正と比較しつつ、近年の日本の産業構造、労働市場、外国人労働者の賃金構造の観点から分析した。

1. 特定技能制度の導入背景と1990年レジームとの比較

   ◯ 2019年に導入された特定技能制度は、2024年6月時点で25万人を超える在留者を数え、近年の在留外国人増加の主要因となっている。本制度は、1990年入管法改正によって形成された「高度人材は積極的、単純労働者は慎重に受け入れる」という基本的枠組み(1990年レジーム)の延長線上にありながら、実質的な単純労働分野への規制緩和を意味する。

    ・ 政策決定プロセスの変容: 1990年の議論では労働組合が関与し、労働市場の二極化や社会的コストへの懸念が示された。対して、2018年の制度導入時における経済財政諮問会議には労働組合の代表は参加しておらず、産業界からの「人手不足」解消の要請が主導した。

    ・ 制度設計上の課題: 個別企業に対して、国内で労働者が確保できないことを証明する「労働市場テスト」のような仕組みは導入されていない。このため、生産性向上や国内人材確保の努力をせず、安価な外国人労働力に依存する企業が温存される構造的リスクがある。

2. 産業構造の転換と労働市場のミスマッチ

   ◯ 2010年代以降の有効求人倍率の上昇(人手不足)は、労働供給の絶対数の不足というよりも、求人(企業側)と求職(労働者側)の構造的なミスマッチに起因する側面が大きい。

   ◯ 産業構造の変化: 1990年以降、第一次・第二次産業の就業者数は減少し、第三次産業(サービス業)中心の経済構造へと転換した。

   ◯ 職業別ミスマッチの実態:

    ・ 事務職: 求職者の希望が集中しており(求職者全体の27.4%)、有効求人倍率は0.39倍と供給過多の状態にある。

    ・ 人手不足分野: 建設、介護・調理を含むサービス、専門的技術職では求人倍率が高く、労働需要に対し供給が追いついていない。

   ◯ 結論: 「人手不足」の背景には、求職者の事務職選好と、実際に求められるサービス・専門職・建設職との乖離が存在する。

3. 外国人労働者の就労動向と代替効果

   ◯ かつて外国人労働者は製造業(技能実習生など)に集中していたが、近年はサービス産業への進出が顕著である。

   ◯ 特定技能の産業別構成: 2023年のデータでは、外国人雇用者に占める特定技能の割合は「医療・福祉」が最も高く(約23.5%)、次いで「製造業」(約11.2%)、「建設業」(約8.5%)となっている。

   ・ 代替効果: 特定技能制度の利用拡大に伴い、「身分に基づく在留資格(定住者等)」や「留学生(資格外活動)」の就労割合が減少傾向にある。特に医療・福祉分野や製造業において、特定技能外国人が既存の外国人労働力を代替している可能性がデータから示唆される。

4. 賃金構造による階層化

   ◯ 統計データの分析により、特定技能外国人が相対的に低い賃金水準に置かれている事実が明らかになっている。

   ◯ 賃金水準: 特定技能者の平均年収は約246万円であり、時給換算では約1282円である。

   ◯ 格差の実態:

    ・ 日本人との比較: 同年齢層(29歳前後)の日本人雇用者と比較した場合、賃金水準は約65%に留まる。

    ・ 他の外国人との比較: 「身分に基づく在留資格」を持つ外国人よりも賃金が低く(約70%程度)、技能実習生よりは高い(約1.1倍)ものの、労働市場における低廉な労働力として位置づけられている。

    ・ 雇用インセンティブ: この低賃金構造こそが、雇用主にとって特定技能者を採用するインセンティブとなっている可能性がある。

5. 結論と将来的課題

   現状の制度運用が以下のような社会的リスクを孕んでいる。

   ◯ 国際競争力の低下: 日本の賃金水準が抑制されれば、経済発展するアジア近隣諸国との格差が縮小し、労働力の供給源としての魅力が喪失する。

   ◯ 社会的分断(分極化): 低賃金労働者の拡大による労働市場の分極化は、直接競合する労働者だけでなく、社会全体の排外意識を高める要因となり得る可能性がある。

   ◯ 労働組合の役割: 移民政策に関する政策決定のプロセスから労働組合が後退している現状を改め、日本人・外国人を問わず労働者の権利を守り、公正な労働条件を確保するための関与が不可欠である。