▼ 津崎克彦 「現代日本における移民の統合と「大阪モデル」の可能性」, 日本労働社会学会年報 (36) 60-86 2025年10月.
【問題の所在】
1990年代の入管法改正による労働市場の国際化から30年以上が経過し、日本社会ではニューカマー2世の本格的な社会進出が始まっている。また、2010年代後半からのさらなる規制緩和により、外国人の在留は加速の一途をたどっている。しかし、これまでの日本の政策議論は「誰を入国させるか」という入国管理政策に集中しており、在留後の政策に関する議論は十分に尽くされてこなかった。
今後、入国管理の規制緩和が進む一方で、国内の施策において「移民問題の安全保障化」——すなわち移民を経済や治安の脅威と捉えて監視・管理を強化する方針——が優先されることが危惧される。これは、移民を軸とした格差の固定化や監視社会化を招くリスクを孕んでいる。
以上の問題意識に基づき、本稿では日常生活に密接した自治体レベルの施策と実践に注目した。国勢調査を用いて日本人との格差(統合状況)を分析し、安全保障化へのオルタナティブとなり得る「統合」への取り組みについて、特に大阪府の事例を中心に考察を行った。
【分析と結論】
2020年国勢調査を利用し、失業・職業・進学の3要因について外国人と日本人の格差を分析した結果、以下の傾向が認められた。
・ 全般的に、人口に占める外国人の割合が高い自治体ほど格差が大きくなる傾向にある。
・ ただし、外国人比率が高い自治体間でも、格差が顕著な地域と、比較的抑制されている地域に分かれることが判明した。
いかなる要因が格差を抑制しているのか。自治体間の比較および大阪府の分析から、以下の3点を「大阪モデル」の主要因として指摘した。
・ 人権条例の充実: ヘイトスピーチ対策を含む包括的な人権条例の整備。
・ 教育的配慮: 高校入試における特別枠や入試特別措置といった進学支援の存在。
・ アクターと歴史的文脈: 制度の形成・運用を支える在日コリアン等のアクターや、反差別の歴史的経緯。
自治体レベルでの条例制定や教育実践は、移民に起因する格差や排除の抑制に寄与する可能性が高い。特に大阪府では、20世紀前半から続く解放運動や民族教育など、格差と排除に抵抗してきた歴史が、制度の実効性を高める実践を媒介として、今日のニューカマーの統合状況に影響を与えている。他自治体とのより精緻な比較や、このモデルの応用可能性については今後の課題とする。
