▼ 津崎克彦(2022) OECD 諸国における自殺、価値観と社会政策--後期近代における「生きづらさ」の解明に向けて, 四天王寺大学紀要第70号
【概要】
本稿はOECD 諸国を対象に、「当該社会で優勢な価値観、社会政策やその他社会的条件は、その社会の自殺の規模やパターンに影響を与える」という作業仮説を下にして、各国の自殺率を説明しようとしたものである。
本稿では、各種社会指標の分析から、近代性と多元性という各国の自殺率に影響を与える2 つの傾向を抽出し、近代性が低い伝統社会（自殺率低）、近代性は高いが多元性が低い勤勉主義社会（自殺率高）、近代性が高く多元性が高いグローバル多元社会（自殺率中）という3 つのモデルを構築した。
自己決定を深化させ、多様なあり方の可能性をもたらそうとする近代性という傾向は、同時に、孤独とアノミーを通して自殺率の上昇をもたらす。こうした傾向に対して、社会的排除と低レベルの社会政策で接した勤勉主義社会は、高い自殺率を帰結し、逆にアソシエーションの発達や多様な社会政策で接したグローバル多元主義は自殺率を抑制するという仮説を提起した。
最後に、上記分析の結果として得られた勤勉主義社会モデルの典型である日本の「生きづらさ」について、それが近代性と勤勉主義の間で起きている問題であることに言及し、その根深さと、代替の方向性を示した。
【章構成】
1．問題の所在
1. 1 21 世紀の課題としての自殺と社会学的取り組みの意義
1. 2 自殺研究と社会学= 本稿のアプローチ
1. 3 既存研究と本稿の概念的フレームワーク
2．データと分析
2. 1 データについて
2. 1. 1 対象国とデータ期間について
2. 1. 2 OECD Data をソースとする変数群
2. 1. 3 世界価値観調査をソースとする変数群
2. 2 分析方法
2. 3 分析結果
3．近代性、多元性と3 つの社会
3. 1 伝統社会と近代性
3. 2 勤勉主義社会とグローバル多元主義社会
3. 3 価値観、社会指標、社会政策
4．まとめ
4. 1 近代性と伝統社会、勤勉主義社会
4. 2 勤勉主義社会のオルターナティブとしてのグローバル多元主義社会
4. 3 今後の課題
【主要図表】
表-5 3つの社会と価値観、社会指標、社会政策
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①伝統社会 |
②勤勉主義社会 |
③グローバル多元主義社会 |
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国の例 |
トルコ、ギリシャ、メキシコ、チリ |
韓国、日本、旧社会主義国、アメリカ |
カナダ、オーストラリア、北欧諸国 |
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自殺率 |
低 |
高 |
中 |
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価値観 |
集団志向 家とエスニシティの維持 |
個人、自己志向 責任、効率、自己統制 |
個人、他者志向 寛容、変化、グローバル |
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排除と包摂 |
同一のエスニシティや家族に基づく包摂と排除 |
勤労と自己統制基準に基づく序列と排除 |
多元的なアソシエーションに基づく包摂 |
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産業 |
農業が多い |
③に比べて製造業が多い |
②に比べてサービス業が多い |
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GDP/人 |
低 |
中 |
高 |
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労働 |
不安定、ストレスが高く労働時間も長い |
①に比較すると良好 |
②とあまり変わらない |
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格差 |
②、③に比べて高い |
③と比べて高い |
②と比べて低い |
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人的資本 |
②、③と比べて寿命が短く、学力が低く、排除が見られる |
③と比べて主観的な健康評価が低く排除が見られる、学力は③と変わらない |
②と比べて主観的な健康評価が高く、排除も少ない、学力は②と変わらない |
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人間関係 |
②、③と比べて社会的サポートは低く、排除が見られる |
③と比べて社会的サポートが低く、排除が見られる |
②と比べて社会的サポートが高く、排除もない |
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家族 |
②、③と比べて離婚率が低い |
③と比べて婚外子の割合が少ない |
②と比べて婚外子の割合が高い |
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ジェンダー |
②、③と比べて、あまり特徴がない |
③と比べて男女賃金格差が大きい |
②と比べて男女賃金格差が低い |
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住宅 |
②、③と比べて、過密、不衛生でインターネットへの接続ができない |
①と比べると良好 |
②と同じ |
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治安 |
②、③に比べて悪い |
①と比べると良好 |
②と同じ |
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政治 |
あまり特徴がない |
③と比較し投票率が低い |
②と比較し投票率が高い |
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幸福度 |
②、③と比べて人生の満足度が低く、排除が見られる、感情面でもマイナスの傾向が強い |
③と比べて人生の満足度が低く、排除の傾向が見られる、感情面ではあまり変わらない |
②と比べて人生の満足度が高く、排除の傾向が見られない |
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社会政策 |
全般的な支出は②、③とあまり変わらないが、家族、保険、障害・業務災害・傷病に関する支出が低く、失業関連の支出が高い |
③と比べ全体支出とLGBTI包摂性が低く、積極的労働市場、家族、障害・業務災害・傷病、その他に関する支出が低い |
②と比べて全体の支出とLGBTI包摂性が高く、積極的労働市場、家族、障害・業務災害・傷病、その他に関する支出が高い |
