【概要】
本稿では2000年代以降、日本で広がった「ブラック企業」問題に焦点をあて、「ブラック企業とは何か」という問題について、既存の調査から概念整理を行った。
特に本稿ではブラック企業で行われているマネジメントに注目し、ブラック企業の背後にあるマネジメント原理を仕事のマニュアル性と人間関係の競争性に特徴づけられる「統制・独裁型」 マネジメントと名付け、そうしたマネジメントが、標準化された消費市場のニーズや労働市場における供給過剰状態、そして「仕事=手段」と呼びうる仕事観に依拠しつつ、賃金が低くなっ た場合に特に「ブラック企業」と評価されるのではないかという点を仮説的に指摘した。加えて、 本稿では、そうしたマネジメントに依拠しない「自由・民主型」モデルというものを提示しつつ、 マネジメントの型と賃金との関連から、①体育会系組織、②狭義のブラック企業、③狭義のホワイト企業、④自己実現系組織という4 つの理念型を提示した。
歴史的に見れば、今日における「統制・独裁型」マネジメントの出現は、科学的管理法のサービス産業への応用とも解釈でき、また、ブラック企業問題の広がりは、国際化や情報化といった要因に加え、「仕事=手段」から「仕事=目的」という労働者意識の変化と仮説的に対応付け られるかもしれない。今後は課題として、一方では本稿で検討した「ブラック企業」モデルとその存立条件を実証的に検証していく必要性に加え、国際比較や従来の日本的経営論の再解釈等を通した歴史的検討をしていきたい。
【章構成】
1. 問題の所在
1.1「ブラック企業」問題とその登場
1.2 「ブラック企業」問題の広がりと影響
1.3 労働研究から見た「ブラック企業」問題と本稿の問題設定
2. ブラック企業とは何か?
2.1 研究の前提と方法
2.2 ブラック企業のマネジメント上の特徴とは何か?
2.3 「統制・独裁型」モデルと「自由・民主型」モデル
3. 「統制・独裁型」モデルと「ブラック企業」問題
3.1 「統制・独裁型」/「自由・民主型」モデルと市場的な存立基盤
3.2 「統制・独裁型」モデルと労働者の意識
3.3 「ブラック企業」の拡大と日本的経営