【概要】
高度人材の国際移動が拡大しているが,その移動メカニズムについてはまだ多くの研究課題が残されている。日本でも 2000 年以降,IT 分野を中心とした外国人技術者の就労が拡大した。
2000 年代の日本で海外からの技術者の就労が拡大したのはなぜか。筆者らはその原因を探るべく,特に韓国人 IT 技術者に注目し,その移動メカニズムに関する調査を行った。本稿ではこれらの調査をもとに,技術者の就労拡大の要因として,次の点を指摘した。第一に,経済的な危機を背景として,送り出し側である韓国政府が自国の情報通信産業の海外展開と若年者の海外就労を強力に支援したこと,第二に,1980 年代から日本で就労していた韓国人技術者が起業した IT 企業が,移動する技術者の日本での就労の受け皿になっていたこと,第三に,韓国の若年層の海外就労意識が高く,地理的,言語的な背景から日本での社会関係資本を形成しやすかったことである。
高度人材の移動については従来型移民と対比して,国家の政策や仲介機関に依存しない「自由な移動」が可能であるという議論があるが,送り出し側による「移住過程の制御」や地理的,歴史的条件によって形成されたネットワークが,こうした移動に寄与していることは強調してよい。高度人材の移動に関する研究においては,受け入れ国間の「獲得競争」という議論に終始するのではなく,送り出し国の状況についても解明していく必要がある。
【構成】
1. 本研究の課題
⑴ 問題意識と課題
⑵ 2000 年代中盤の日本における韓国人 IT 技術者の増大
⑶ 研究の方法
2 日本における外国人 IT 技術者受け入れ
⑴ 日本の情報通信産業と外国人 IT 技術者
⑵ 技術者の需要をめぐる行政・業界間の認識の違い
3 韓国の情報通信産業とアジア通貨危機以降の海外就労支援政策
⑴ 韓国の情報通信産業と送り出しシステムの形成を可能にした諸条件
⑵ 送り出しシステムの 4 つの担い手
① 産業人力公団と海外就業支援センター(現海外就業局)
② 貿易アカデミー
③ 民間教育研修機関 A 社
④ B 大学
⑶ 海外就労支援教育を受けた IT 人材の就職:C 社の事例
4 結論と残された課題